キャリア教育では、「将来やりたいことを見つける」「自分に合う仕事を考える」といった言葉がよく使われます。
しかし、学生にとって、最初から自分の行き先がはっきり見えているとは限りません。
「やりたいことが分からない」
「自分に合う仕事が分からない」
「どんな企業を選べばよいか分からない」
こうした迷いは、意欲がないから生まれるとは限りません。
社会や仕事についての情報がまだ少なかったり、自分の経験と仕事とのつながりが見えていなかったりするために、行き先を描きにくいことがあります。
なぜ好きな食べ物は選べるのに、仕事は選びにくいのか
授業では、学生に「好きな食べ物を一つ挙げ、その理由を他の食べ物や店と比較して説明してみよう」というワークを行うことがあります。
多くの学生は、好きな食べ物については比較的すぐに答えることができます。
メニュー、味、値段、店の雰囲気、過去に食べた経験、そのときの気分、友人や家族との思い出など、判断するための材料があるからです。
一方で、「どんな仕事をしたいか」「どんな企業が自分に合うか」と聞かれると、急に答えにくくなることがあります。
それは、仕事に対する意欲がないからとは限りません。
食べ物に比べて、仕事や企業についての経験や情報がまだ少なく、比較するための材料が十分にそろっていないことが多いからです。
だからこそ、キャリア教育では、自己分析だけでなく、社会や仕事、業界、企業について知ることが大切になります。
この「まだ見えていない行き先を、材料を集めながら少しずつ描いていく」という感覚を考えるとき、私は『烈車戦隊トッキュウジャー』を思い出します。
行き先は、最初から見えていなくてもいい
『烈車戦隊トッキュウジャー』は、列車、乗り換えチェンジ、イマジネーションを大きなモチーフにしたスーパー戦隊シリーズです。
物語は、最初からすべてが分かっている状態で進むわけではありません。
登場人物たちは、烈車に乗り、さまざまな駅を進みながら、自分たちが何者なのか、何を取り戻そうとしているのかを少しずつ知っていきます。
これは、キャリア教育にも通じる感覚です。
キャリア教育で大切なのは、学生にいきなり正解を決めさせることではありません。
社会を知る。
仕事を知る。
自分の経験を振り返る。
人との関わりの中で、自分が大切にしたいことに気づく。
こうした材料を少しずつ集めながら、「自分はどこへ向かいたいのか」を仮に描いてみる。
その過程そのものが、キャリア教育において重要になります。
イマジネーションは、ただの空想ではない
トッキュウジャーで繰り返し語られる「イマジネーション」は、単なる空想ではありません。
まだ見えていない行き先を思い描く力。
暗く見える状況の中でも、その先にある未来を想像する力。
自分たちがどこへ向かうのかを、仲間とともに描いていく力。
キャリア教育におけるイマジネーションも、これに近いものだと考えています。
将来の夢や目標は、何もないところから突然生まれるわけではありません。
仕事を知り、業界を知り、企業を知り、そこで働く人の姿を知る。そのうえで、自分の経験や価値観と結びつけていく中で、少しずつ見えてくるものです。
たとえば、「地域に貢献したい」と思っても、地域に貢献する仕事が何なのかを知らなければ、行き先は見えてきません。
自治体だけでなく、金融機関も地域企業を支えています。物流会社も、地域の生活や産業を支えています。食品メーカー、教育、福祉、交通、情報通信、観光、不動産、エネルギーなども、それぞれ異なる形で地域と関わっています。
自分の価値観だけを見つめていても、仕事との接点は見えにくいことがあります。
社会や仕事の背景を知ることで、ようやく「自分の関心」と「社会の中の役割」がつながってくるのです。
乗り換えチェンジと、自分なりの強み
トッキュウジャーの特徴の一つに、「乗り換えチェンジ」があります。
乗り換えチェンジでは、仲間の烈車に乗り換えることで、別の色の力や技を使えるようになります。
ここで面白いのは、同じ色の力であっても、使う人によってその出方が変わって見えることです。
別の色の力を使っても、その人自身が別人になるわけではありません。中身はその人のままです。
だから、同じ色や力を使っていても、もとの持ち主とは違う強さや動き方が見えてきます。
これは、キャリア教育における強みの理解にも重なります。
学生は、自分の強みを「コミュニケーション力」「リーダーシップ」「分析力」「協調性」といった言葉で整理することがあります。
しかし、同じ強みでも、誰が、どの場面で、何のために使うかによって、その意味や出方は変わります。
同じ「コミュニケーション力」でも、場を明るくする力として発揮されることもあれば、相手の話を丁寧に聴く力として発揮されることもあります。
同じ「リーダーシップ」でも、前に立って引っ張る形もあれば、周囲を支えながら全体を動かす形もあります。
強みは、その言葉の単純な意味だけでは決まりません。
いろいろな場所でいろいろな人と関わる経験は、自分が知らなかった、使ったことがなかった色を知る機会でもあります。
同じ強みでも、場所や場面によって求められ方は変わります。だからこそ、様々な仕事や業界を知ることは、自分の強みの使い方を考えるうえでも重要になります。
他者の色や社会の中にある役割に触れることで、「自分ならこの力をどう使えるだろう」と考えることができます。
他者の色を知ることは、自分の色を失うことではありません。
むしろ、他者の色に触れることで、自分ならではの強さが見えてくることがあります。
キャリア教育は、行き先を描く材料を増やす学び
キャリア教育は、学生に早く正解を選ばせるためのものではありません。
もちろん、大学生の就職活動には一応の期限があります。現実には、いつまでも迷っていられない場面もあります。
それでも、キャリア教育の本質は、「早く決めること」だけではないと考えています。
自分は何を大切にしたいのか。
社会にはどのような仕事があるのか。
企業はどんな価値を提供しているのか。
自分の経験は、どのような仕事とつながるのか。
他者や社会に触れることで、自分の力をどのように見直せるのか。
こうしたことを考える材料を増やしていくことが、キャリア教育には必要です。
行き先は、最初からはっきり見えていなくてもいい。
見えないなら、情報を集めればいい。経験してみればいい。人に聞いてみればいい。自分の違和感を大切にすればいい。そして、自分の力の使い方を、少し変えてみてもいい。
自分自身のキャリアの物語はその先も続いていきます。
だからこそ、最初から正解を決めきることよりも、行き先を描く材料を増やしながら、自分の力の使い方を少しずつ見つけていくことが大切なのだと思います。
トッキュウジャーの「イマジネーション」と「乗り換えチェンジ」は、キャリア教育にとって、そのような学びを考えるヒントを与えてくれるのではないでしょうか。
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『烈車戦隊トッキュウジャー』の「イマジネーション」と「乗り換えチェンジ」を手がかりに、見えない行き先を描く力や、仕事理解・自己理解について考えています。



